2020.01.28
民法改正による賃貸借契約への影響は?
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現在の民法は明治29年に制定されたものですが、この度、120年ぶりに改正されることとなり、2017年5月に可決成立し、同年6月に公布され2020年4月1日から施行されることが決まっています。
今回の改正は、契約法の全般を抜本的に見直すものですので、不動産の売買や、賃貸借などの契約実務も大きく変わることになります。
特に、賃貸借の分野では、かなり大きな改正がなされていますので、賃貸経営をされる方にとっては改正民法の知識は必須と思われます。
賃貸借契約の連帯保証人に関する改正
改正民法では、賃貸借契約の連帯保証人が個人である場合は、原則として、連帯保証契約において「極度額」を合意しないと
連帯保証契約が無効になります。「極度額」とは、保証人の責任限度額、保証の上限額のことです。
例えば、家賃が月額10万円のアパート賃貸借の連帯保証人との間で、極度額を契約書で100万円と定めたとします。
その場合、賃借人が家賃を1年2か月分を支払わなかったとすると、120万円の滞納がありますが、連帯保証人には合意した極度額100万円までしか請求できなくなる、ということです。
これまでの不動産賃貸借契約書では、通常、賃借人を設定する際に、保証する最大限の額(極度額)の定めなく以下のような
条項で連帯保証していることが通常と思われます。
「連帯保証人は、賃貸人に対し、賃借人と連帯して、本契約から生じる一切の債務を負担する。」
このように上限額の記載はありません。その為、連帯保証人は、文字通り「本契約から生じる一切の債務を負担する」のであり原則としては100万円でも、1000万円でも義務を負うことになります。
なぜ法改正されて極度額の設定が必要になるのか
問題は、いくらまでの責任を負うのかが不明確なところです。
これまでの契約条項ですと、連帯保証人としては、どこまでの金額を負担しうるのかがわかりません。
賃貸借契約から生じる損害賠償といっても、賃料の不払いもあれば、賃借人が故意または過失で壊してしまった物の修繕費や
賃借人が物件内で死亡した場合の損害賠償義務の負担など様々です。
そうなると、連帯保証人としては、どこまでの債務について連帯保証しなければならないのかが明らかでなく、予想もしないような高額の請求がなされて、予想外の負担を負うことにもなりかねません。
そこで、改正民法では、連帯保証人が負うべき最大限度額を書面等で契約しなければ保証は無効となるというルールを新たに定めました。
極度額までしか連帯保証人は負担をする必要がないとなると、極度額を1億円など、通常ではありえないような高額の金額を設定しておけば
よいのではないかと思われるかもしれません。しかし、これには問題があります。
一つは、高額な金額設定がなされていることにより、連帯保証人の承諾が取りづらいということです。
連帯保証人として100万円まで責任を負いますという場合はまだしも、1億円まで責任を負いますと説明されると躊躇してしまう
人も出てくるでしょう。(現行法では、保証限度額の際限はないわけですが、数字が具体的になると不安感が出てくるものです。)
こうなると連帯保証人の確保が難しい場合もあるかもしれません。
もう一つは、高額の場合には、公序良俗違反として無効(民法90条)という可能性が生じてきます。
一般の賃貸物件、極度額を100億円に設定するような場合などは無効の可能性が出てくると思われます。
そこまで極端に大きな額の保証をしなければならないのであれば、何のために法改正したかわかりません。
ただし、いくらなら無効なのか、というのが法律ではっきり決まっているというわけではありません。
国土交通省が調査した「極度額に関する参考資料」によると裁判所の判決において、民間賃貸住宅における借主の
未払い家賃等を連帯保証人の負担 として確定した額は、平均で家賃の約 13.2ヶ月分でした。
この部分については賃主と借主、そして連帯保証人となる人との話し合いにもよりますが、滞納に対する賃貸業界の対応を
考えると極度額は家賃12ヶ月分前後が基準になってくるのではないかと考えられます。
改正民法の施行時期と現在の契約について
この新しいルールは2020年4月1日から実施されます。現在、賃貸借契約を締結しているものについては極度額を合意していないと
思いますが、この契約は2020年4月1日を迎えると無効になるのでしょうか。
改正民法の規定は、施行日である2020年4月1日以降に新規に賃貸借契約を締結する場合に適用されます。
従って、現在締結済みの既存の賃貸借契約については、改正民法施行後もそのまま有効と扱われますので、この点は安心していただいて
大丈夫ですが、2020年4月1日以降に締結する契約については極度額が必要となりますので注意してください。