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2019.05.30

売買契約への影響は? 〜契約締結後、所有権移転日の前に賃借人が亡くなってしまった場合~

12月15日にミューザ川崎にて、財産ドック主催「3人の不動産のプロが伝授 地主・家主のための資産対策セミナー」が開催されました。

あまり想像したくない状況ですが賃借人が居住している物件を投資不動産として保有しようと考え売買契約を締結したとします。

まだ所有権の移転日が到来する前に賃借人が死亡してしまった場合、既に締結された売買契約にはどのような影響があるのでしょうか。





多数の賃借人が居住している物件であれば、そのような事例が発生することは、大いに考えられます。





たとえば、1人暮らしのお年寄りが、売買契約締結後決済日(所有権移転日)前のタイミングで亡くなった場合について考えてみましょう。





上記の場合、賃借権に対する相続が発生することになります。相続が発生すると、賃借権も相続財産の1つとして法定し相続人に相続されます。

したがって、仮に亡くなられた方に相続人がいれば、その方々が賃借権を相続することになります。





この場合、賃貸人としては、相続した賃借人らとの間で賃貸借契約を終了させれば足りますので既に締結された売買契約は特に大きな影響は

受けないことになります。つまり、売買代金や不動産の価値には特に影響はでないということです。





しかし、このような相続の問題にとどまらず、賃借人が亡くなられた原因が自殺や他殺であったとすると契約締結後に心理的な瑕疵が生じて

不動産の価値が下がったと考えられる場合もあります。





この場合売主は、売買契約において、心理的瑕疵のない不動産を引き渡さなければならなかったのに、それができないから債務不履行だということはできないのでしょうか。





売買契約後に発生した事故について、売主には帰責事由がないため、売主に債務不履行責任を問うことはできません。

現行民法においては、この問題は、危険負担の問題として処理されます。





つまり、不動産という「特定物(不動産)の移転(売買)を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者(売主)の責めに帰すことが

できない事由によって損傷したとき」(現行民法534条1項)に該当しますので、結論として、売買契約はそのままの内容で有効であり、買主には

合意された売買代金を支払う義務があります。





しかし買主の立場になって考えると、所有権が移転していない段階で発生した事故や事件で売買の目的物である不動産の価値が下がったのですから

売買代金の減額や売買契約を取り止めたいと思ってしまいます。



このような不都合に備えて、売買契約書には、民法の原則的な処理の例外を定めることが多く、たとえば、契約締結後に死亡事故が発生したような

場合には買主に解除権を認めたり、解除権まで認めなくても原状回復費用(特殊清掃費用)を売主負担としたりする規定をおくことがあります。





民法に規定された処理では不都合であるため、民法の規定に囚われない特約を定めます。





このあたりは、原則的に2020年4月1日から施行される改正民法では、もう少し整理されることになっています。

改正民法においては、危険負担の債権者主義(買主が危険を負担するという処理)の条文が削除されたり、契約解除の要件として債務者(売主)

の帰責事由が求められなくなったり今までの民法の考え方を大きく変える改正が予定されています。





今回の事案を改正民法で処理しようとすると、引き渡された不動産は「品質・・・に関して契約の内容に適合しないもの」に該当し

買主は「その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。」(改正民法563条2項1号)ことになるでしょう。





これにより心理的瑕疵で資産価値が下がった場合でもその資産価値に応じた代金を支払えばいいということで安心した取引ができそうです。

それでも改正民法は、「契約の内容に適合しないもの」という抽象的な文言ですので、具体的な事案に応じて個別に適用の有無が検討されることになります。





このことを考えると、事案によって判断が区々になることを避ける観点で、契約締結後に死亡事故が発生した場合については

従前どおり当事者間の特約でその処理方法を具体的に定めておくことが肝要です。